元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 デジタル庁発足に逆行するかのように脱デジタル化を決意した稲垣さん。スマホとの付き合い方についての考察・第2弾をお届けします。

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 脱テレビで手に入れた時間とエネルギーを「まんまスマホに取られているんじゃないか疑惑」は、最初じんわりした自覚症状から。だって原稿がたまる一方。1年に1冊は出していた本もとんと出せぬまま時だけが矢のように経過。ああ時間がない! と思いつつ、ふと気づけばスマホをチェックしている私。これはもしや……と、気になっていたベストセラー『スマホ脳』を読んだわけです。

 実は発売当初はそれほど興味なかったのだ。だって私、機械に弱すぎてアプリと聞くだけで拒否反応を示す超アナログ人間。なので関係ねーやと。とんでもなかった。

 平均的現代人は今や4時間スマホの画面を開いているという。便利だから? 楽しいから? いや、そもそもスマホとはそういうふうにできているのだ。ヒトの脳の仕組みを巧みに利用して、スマホを見るたびにドーパミン(快楽物質)が出る仕組みになっているのである。その快感欲しさに我らはスマホなしではいられなくなる。代償として差し出すのが「集中力」だ。集中は現代の最大の貴重品と化したと筆者は指摘している。

 私は震撼(しんかん)した。身に覚えのありすぎることばかり。メールが届いた、SNSに誰かが反応したとスマホが親切に知らせてくれるたびに、何をしていても見に行かずにはいられない。いそいそと返信するのはさらなる反応を期待しているからだ。もちろんそのたびに原稿書きは中断。それだけじゃなく、心はさらなる反応のお知らせの期待に奪われている。集中しているフリをしても本当は集中していないのだ。次にSNSに投稿するネタまで考えたりしている。私は無限に集中力をスマホに差し出し続けていたのである。

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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