■義勇の「言葉の失敗」はなぜ起きる?
<俺は水柱じゃない>(冨岡義勇/15巻・第130話「居場所」)
かつて、義勇は仲間の錆兎(さびと)に助けられ、自分だけが生き残ったことに自責の念を抱きながら生きている。それに耐えきれず、「俺は水柱になっていい人間じゃない そもそも柱たちと肩を並べていい人間ですらない」と、自分を卑下するようになる。
だが、義勇は他者よりも「優れた剣士である」からこそ、「他の隊士たちと自分は違う」という自嘲が、ストレートには周囲に伝わらず、自分だけがまるで「孤高の人物」として振る舞っているような誤解を受ける。ここで生じる、他の隊士たちとの認識の違いが、義勇の「言葉の失敗」をさらに複雑化させてしまっている。
■胡蝶しのぶが冨岡義勇に怒ってしまうワケ
柱の中で最も義勇と“距離が近い”のは胡蝶しのぶだろう。作品の中では一緒に行動したり、会話を交わす場面も多い。
鬼に「姉」を殺害されているという点、そして姉の死後に「本来とは違う性格」になってしまった点において、義勇としのぶは共通している。そして、「笑顔が素直に出てこなくなってしまった」という点でも似ている。
義勇は、兄弟弟子である錆兎を失ってからはとくに、かつての快活な笑顔を周囲にみせなくなってしまった。悲しみを封印するとともに、うまく笑えなくなっている。一方、しのぶは、自らの怒りを封印し、姉・カナエの代わりにそのつとめを果たそうとして、「うその笑顔」をはりつけている。しのぶには義勇の心情が十分に理解できているだろう。
しかし、自責の念から、他の柱たちと距離を取ろうとする義勇の姿は、周囲のために「常に笑顔の自分」であろうと努力しているしのぶからすると、イライラの対象になってしまう。しのぶが義勇に「説明が足りない」といつも怒るのはこういう理由だ。義勇の内奥にある悲しみがわかるからこそ、しのぶは孤独を守ろうとする義勇を看過できないのだ。