■選挙には河野・石破

 実際に総裁選に一票を投じる議員、党員にはこんな葛藤があると、ある自民党地方議員は打ち明ける。

「党内での出世を考えたら麻生さん、安倍さん。けれども、選挙のことだけを考えると、石破さんと組んだ河野さんがいい。安倍さん本人が出るならともかく、岸田さんや高市さんでは乗れない」

 つまり、国民目線に立てば安倍・麻生はダーティー過ぎる。人気度、好感度の高い「石破」「小泉」を率いた「河野」という布陣は決して悪くないというのだ。何しろ石破氏自身はともかく、「若い次世代」という面をアピールできるのだ。ただ、来年に選挙を控える参議院の改選議員は少し事情が異なる。「先を考えれば安倍さんが推す岸田さんだ。河野氏はそれまで人気が持たない可能性がある」

 女性初総裁を目指す2人はすでに厳しい戦支度となっている。高市氏は「政治思想が安倍さんよりも極端でついていけない」。野田氏は「推薦人20人を集めるのが精いっぱい。決選投票までたどり着くだけの政治的体力に乏しい」との党内の声があり、先をゆく2人には後塵を拝している。

 また意外にも「コロナ禍」であることが、どの陣営にも影響を与えている。なぜならば、いつ、どこで、誰が、誰と会っている、ということが可視化されにくいのだ。あるベテラン議員が苦笑する。

「かつて総裁選は、あの会館で誰と誰が会っていた、みたいな情報に各選対が一喜一憂したものです。けれども今は若手になればなるほどオンラインでしょ。影響力のある議員ほど動向が見えないのです」

 いずれにしても自民党というコップの中の権力争い。選挙のために顔をすげ替えるだけでは、有権者はすぐにさじを投げるだろう。(編集部・中原一歩)

AERA 2021年9月27日号