滋賀県警の滝沢依子本部長(C)朝日新聞社
滋賀県警の滝沢依子本部長(C)朝日新聞社

 民事裁判で証拠となっている西山さんの供述調書には<患者さんを殺すことを決意したのです>と記されている。信用性を否定されている供述調書の一部を切り取って、今も西山さんを「犯人視」するように何度も引用していた。

 再審無罪は西山さんの軽度の知的障害や発達障害、愛着障害を認定して下されている。もちろん、専門医の診断によるものである。

 しかし、滋賀県は以下のように真っ向から争うというのだ。

<軽度の知的障害、発達障害(注意欠如多動症)、および気分転換性障害並びに愛着障害があるとの主張については争う>

<(西山さんを)知的障害者と評するのは、あまりに安直>

 大津地裁の大西直樹裁判長は無罪判決朗読後、10分ほどにわたり説諭。

「捜査のあり方が問われる」「刑事司法を改善すべき」という捜査機関への批判や、「刑期を終えて社会復帰した西山さんは殺人事件の被告人として歳月を過ごし、家族もつらく苦しかった」などと西山さんに心を寄せた話についてまで、<滋賀県警としては、承服し難い>と記し、真っ向から対立している。

 それ以外についても、<再審公判裁判所の評価について、否認ないし争う>と、確定しゆるぎないはずの再審無罪判決について、民事訴訟で喧嘩を吹っ掛けるような文言が散見されるのだ。弁護団の1人はこう怒る。

「西山さんの再審が認められて、大津地裁で審理がはじまりました。しかし、大津地検は西山さんが犯人だという証拠を何も出せず、有罪立証しない。白旗を上げたも同然でした。無罪判決後、検察は上訴権を放棄、つまり控訴できず確定。なぜ、民事訴訟で訴えると、再審無罪の判決を無視して西山さんが犯人だといわんばかりの主張をするのか、本当に許せない」

 西山さんも「滋賀県の主張はうそ」と怒っているそうだ。

西山さんの弁護団長の井戸謙一弁護士は、自身のSNSで以下のように書き込んでいる。

<ようやく真っ白の無罪を獲得した西山美香さんに対し、あろうことか、「お前は殺人犯である」という趣旨の主張をしてきました。私たち原告弁護団は、滋賀県の代理人に、この準備書面の撤回を求めましたが、滋賀県の代理人はこれを拒否しました>

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