林:「ちゃんとした芝居」って、俳優座とか文学座とか、そういうところから来たような人ですか。仲代達矢さんの無名塾とか。

岸部:うーん、それは難しいところですね。僕は音楽から来ている人間ですから、脚本を読むと、リズムがいいとか悪いとか、「音楽のほうから見ると、こういうことかな」っていう感覚があるんですよね。

林:ああ、音楽のほうから見るんですか。

岸部:はい。芝居を始めたころからいままで、ずっとそういう感覚でやってきたので、まあこれでいいかな、とは思っているんですけどね。僕、小学校のころ親の都合で4回ぐらい引っ越ししているんですよ。

林:そうなんですか。

岸部:京都で生まれて、本に行って、友達ができるころには転校するんですね。そういう状況を繰り返すうちに、何となく人としゃべらない子どもになっていったんです。そういうこともあって、とくに子どものころは、言葉を使って人に何かを伝えることが苦手なほうだったんです。

林:ええ。

岸部:今でも、「言葉に代えたらこういうことかな」という、その言葉が見つからないときがあるんです。たとえば音楽では、作詞をするときに、「これにぴったりの言葉がないかな」と思っても、思いつかないんです。芝居でも同じで、心の中では言葉に代わる何かが生まれているんですけど、それを伝えにくい。だから黙っていると、「それがいい」と言う監督もいるんですよね。たとえば小栗康平さんだと、「言葉を使うと感情が小さくなる。言葉を使わないで、感情が体に残っているほうがいいんだ」と言うんです。

林:なるほど。

岸部:希林さんも「私は変わった子どもで、コミュニケーションがうまくとれなかった」みたいなことを言っていましたけど、そういう人は意外と多いんです。

林:そういう人が「名優」と言われる人になっていくんですね。多弁じゃなく、心の中に感情を残して、その余白が私たちに伝わってくるという……。

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