
18歳の千夏(吉田美月喜)は、母の昭子(常盤貴子)と笑いの絶えない日々を過ごしていたが……。若年性乳がんと恋愛をテーマに、揺れ動く娘と母の切ない思いを繊細さとユーモアをもって描き出す──。連載「シネマ×SDGs」の37回目は、話題を呼んだ舞台をまつむらしんご監督と脚本家の高橋泉がタッグを組んで映画化した「あつい胸さわぎ」で主人公を演じた吉田美月喜さんに話を聞いた。

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若年性乳がんについての知識はほぼありませんでした。千夏を演じた時は私も同じ18歳。彼女も自分が乳がんだとわかった時は、私と同じように何の知識もなかったのではないかと思います。がんについていろいろ調べましたが、今の情報社会の中ではどれが正しくて、どれが間違っているのかよくわかりませんでした。千夏も心配に思うことがたくさんあっただろうと思ったので、演技では私が初めて感じた不安を大切にしようと思いました。

撮影前にまつむら監督やスタッフの方と乳がんの勉強のために、専門医のリモート会議に参加しました。わからないことがたくさんあったので、千夏の場合はどういう治療の進め方をするのか医師の目線から伺ったり、実際に乳がん患者の方の日記を見られるサイトを紹介していただいたり。なかでも印象的だったのは、患者の方の「乳がんだと宣告された時は焦りや悲しみではなく、無な状態になる」という言葉です。すごく腑に落ちたので、撮影の時は、頭が真っ白になって何も考えられないことを意識しながら演じました。

ただ、この映画はがんそのものがテーマではありません。撮影しながらすごく思ったことは、周りの人が諦めずにずっと寄り添い続けてくれることの大切さ。千夏自身も助かった部分だと思いますし、吉田美月喜としても監督はじめ皆さんにすごく支えられて演じきることができました。本作は、俳優としての私を成長させてくれたと思いますし、私にとって「18歳の夏はこれです」といっても過言ではないほど思い出深い作品になりました。まだ自分の演技のことだけでいっぱいいっぱいで支えられてばかりですが、将来は周りを安心させられる俳優になりたい。そんな新たな目標ができました。(取材/文・坂口さゆり)

※AERA 2023年1月30日号