■「ほんとうに危機一髪。吐きそうだった」
さらに恐ろしい思いをしたのは、ウガンダに武器工場の建設が決まり、その相談でスペインにあるアレハンドロの「基地」を訪ねたときのことだった。
鋼鉄製の2重ドアをくぐり抜けると、アレハンドロと仲間がいた。
アレハンドロは「アフリカでは情報漏れに気をつけろ」とアドバイスし、盗聴器の探知機を持ち出した。スイッチを入れたとたん、信号音が鳴り出した。
「そのとき私は胸と肩、バッグにカメラとマイクを仕込んでいた。足には記録用のハードディスクを巻きつけていた。(これは、マズい!)と思った」
ウルリクさんは、冷静を装って「レンタカーのリモコンが反応しているんでしょう」とかわした。だが、信号音はしばらく鳴りやまない。
「さりげなく、腕を交差して、探知機がそれ以上近づかないようにした。ほんとうに危機一髪だった。車に戻ったとたん、吐きそうになった」
大きく息を吐き、ハンドルを握った。5キロほど離れた場所で待機する撮影チームの所に車を走らせた。
「技術者に『体につけた機材をすぐに外してくれ』と頼んだ。たまらず、自分でもカメラを外した」
この一件以来、相手と接触する際は、会う場所を自分から指定し、近くに元特殊部隊員の仲間が待機するようになった。
■「ぼくらは中国のパスポートを持っている」
映画の公開後は、デンマークの諜報機関が身辺警護を申し出てくれた。
「もちろん、北朝鮮には行くな、と言われています。中国やロシア、ベラルーシなど、北朝鮮との結びつきが強い国へも」
さらに、ウガンダを訪れたときの体験を語った。
「そこにやってきた北朝鮮の人たちは『ぼくらは中国のパスポートを持っているから』と言っていた。それを聞いて、(怖いな)と思った。つまり、世界中の中国の大使館を通じて『誰かが』が送られてくる可能性があるわけです」
講演活動などで海外を訪れる際には必ずセキュリティーガードがつくという。
「デンマークだけでなく、世界中に顔が知られてしまいました。歩いていると、声をかけられ、ヒーローだと言ってくれる人もいる。今回の作品で少しでも北朝鮮の体制に穴が開けられるのであれば、とても誇らしく思います」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)