(C)2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS
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「私が西ドイツ国歌を歌い始めたら、『やめろ』と言われた。『あちらは資本主義で、ぼくらは社会主義だから』と。自分は安全な環境に暮らしていたけれど、彼は違っていた」

 当時、東ドイツでは「シュタージ」と呼ばれる秘密警察が反体制的な言動を厳しく監視していた。盗聴は当たり前で、肉親を含めて、密告者はどこにでもいた。

■バレた! もう終わりだ

 その後、ウルリクさんは料理人となったが、慢性疾患で仕事を失い、福祉手当で暮らすようになった。

「人生が変わってしまいました。でも、何か新しいことをやりたい、と思った。そんなときに見たのが(「THE MOLE」を撮影した)マッツ・ブリュガー監督の反北朝鮮映画『ザ・レッド・チャペル』だった。少年時代の記憶がよみがえり、北朝鮮の実態を暴きたいと思った」

 2009年、ウルリクさんは北朝鮮支持者を装い、デンマーク朝鮮友好協会に入会。ブリュガー監督とも連絡をとり始めた。

 本格的に撮影が始まったのは12年、平壌を訪れたときだった。

「監督から『カメラは使えるのか?』と聞かれたので、『スピルバーグ並みに撮れます!』って、答えた(笑)」

 しかし、ウルリクさんは“スパイ”として専門的な訓練を受けたわけではない。国家の後ろ盾もなく、身を守ってくれる人は誰もいない。時には、命の危険を感じることもあった。

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 17年、武器取引について北朝鮮側と話し合うため、投資家役の「ミスター・ジェームズ」を連れて再び平壌を訪れたときだった。

 朝、車に乗ると、北朝鮮の案内人にこう告げられた。

「あなたの力になれる人に会いに行く」

 車は郊外へ向かい、廃虚となった工場のような建物に着くと、階段を下りるように指示された。地下は薄気味悪い場所だった。わざわざ、こんな人気のない場所に連れてこられたことに、“最悪の事態”も頭に浮かんだ。

「あのときは、(バレた! もう終わりだ)と思った。家族のことが思い浮かんだ」

 ところが、連れて行かれた地下にある大きなドアが開くと、突然、豪華な部屋が現れた。

「カタログが手渡され、(うそだろう?)と思った。そこには弾道ミサイルから対戦車砲まで、どこかの国で内戦が起こせるくらいの兵器とその価格が載っていた」

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ほんとうに危機一髪。吐きそうだった