20年前、アフガニスタンを一周した印象は強く残っている。とにかくアフガニスタンは美しかった。圧倒的な大自然なのだ。サラン峠から眺めた渓谷の緑と澄んだ空にはうっとりした。マイマナからヘラートにいく途中で目にした大渓谷は、アメリカのグランドキャニオンよりすごいのではないかと思ったほどだった。夜は街灯も少なく、空も澄んでいるから、満天の星空である。
不謹慎ないいかたに聞こえるかもしれないが、戦乱が長く続く土地には手つかずの自然が残される。産業が発達しないからだ。アフガニスタンの場合、カレーズという水路が破壊され、農業もなかなか難しい。
男たちは家族を養うために兵士になって給料をもらうしかない。アフガニスタンの負の連鎖だった。タリバンはそのなかで、いま、資金調達がうまくいっているのだろう。
アフガニスタンから、連日、不穏なニュースが届く。そのたびに、僕はあまりに汚れがないアフガニスタンの空を思い起こしてしまう。それが矛盾した発想だとわかりながらも。
■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。