本気の喧嘩(けんか)と中年男の脱力感に舞台は躍動し、桟敷席の僕はセリフにうなずき「そうそう」と声を上げ、それに気づいてひとり赤面した。
「千穐楽に向田和子さんがいらしてね。『こういうのを演(や)って欲しかった。姉に見せたかったわ』って。それでこっちはウルウルしちゃった。お土産に手拭いとカード立てをそれぞれに下さって。何とも粋なお気遣いでした」
公演翌日は見事な晴天になった。アメリカから修道女の妹も駆けつけ、昭和に生きた父の墓前に花を手向けながら自分も家族という舞台に立っている感慨を覚えた。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年11月25日号