ここでもしたたかな立ち回りが求められるようだが、外交評論家の孫崎享氏はこう懸念する。
「安倍元首相は表で中国に厳しく言いながら、裏では抜け穴を作ってパイプを維持するような立ち回りがうまかった。一方、岸田氏は総裁選立候補時から米国が喜ぶ発言ばかり。米国から『親中』と目をつけられていた二階氏を幹事長から降ろしたが、中国とのパイプは弱くなった。強硬路線は保守派にウケが良くても、長期的にはマイナスです」
岸田氏は防衛政策でも安倍路線を踏襲し、ミサイル防衛の敵基地攻撃能力の保有を掲げている。
防衛ジャーナリストの半田滋氏はこう懸念する。
「岸田氏の特技が人の話を聞くことならば、ぜひ制服組から的確な情報を聞いてほしいと思います。専守防衛に徹してきた自衛隊には、敵基地攻撃が無理であることがわかるはずです。兵器体系がそうなっていないし、外国で戦うことを前提としていないからです」
だが、18年の防衛計画大綱で、相手の射程圏外から攻撃できる「スタンドオフ防衛能力を獲得する」と明記。昨年12月、現在の12式地対艦誘導弾の射程をのばし、長射程の巡航ミサイルの開発を閣議決定している。
「そうして部分的に敵基地攻撃能力のある兵器を揃えても、それを使うには米国の協力が必要なのです。日本は十分な偵察衛星を持っていないから中国や北朝鮮のミサイル基地がどこにあるのかわからないからです。米国の情報に頼った敵基地攻撃が、どれほど危険な状況を招くかは明白です。それよりも、宏池会が築いてきた中国はじめ近隣諸国と良好な関係を維持するべきです」(半田氏)
課題は山積だが、前出の前嶋氏は岸田氏にこんな期待も寄せる。
「当面は安倍路線で行かざるを得なくても、長期安定政権になれば独自色を出せるのでは。核軍縮や沖縄の負担軽減といった、外交交渉を前面に押し出していく宏池会本来のマイルドな保守リベラルという色を徐々に出していけるかどうか」
“傀儡”の汚名返上には、長く険しい道のりが待っていそうだ。
(本誌・亀井洋志、秦 正理)
※週刊朝日オンライン限定記事