中国の実体経済への波及も気がかりだ。恒大は未払いの工事代金など約9511億元、引き渡し前の物件の契約債務が約2157億元ある。さらに簿外の証券化商品も抱える。
「三条紅線」で危機が表面化した大手は恒大に限らない。危機が広がり、金融機関が融資に一層慎重になりそうだ。最近は不動産の販売が鈍り、長らくバブルが指摘されてきた中国の不動産市場は、一大転換期を迎えている。不動産業のGDPに対する貢献率は今年上半期の時点で7.5%ある。不動産バブルの抑制は成長のさらなる鈍化にもつながる。
■「リスク抑制」の標的
ただ、当局は経済への影響も覚悟して、不動産の規制に取りかかっている。中国共産党にとって何よりも重要なのは政権の安定で、それには経済の安定が欠かせないからだ。鈍りつつある成長に、金融によるテコの効果でカンフル剤を打つことは、バブルをさらに膨らませ、経済の脆弱性(ぜいじゃくせい)を高めてしまう。
習指導部は体制の動揺につながる金融のリスクをことごとく摘んできた。2017年には借金で不動産開発を拡大させた万達グループに資産を売却させ、20年には巨額の負債を抱えた海南航空の親会社を公的管理に。同年秋にはリスクの高い融資を手がけてきたアントグループへの締め付けも発生している。ビットコインも全面禁止した。
そうした中で登場したのが恒大を追い詰めた「三条紅線」だった。習指導部が3期目入りを決めるとみられる22年秋の党大会まで残り1年。経済の“リスク退治”は続きそうだが、やりすぎは逆に「角を矯めて牛を殺す」危うさをもはらむ。(朝日新聞経済部・福田直之)
※AERA 2021年10月18日号