2006年に会社員生活をスタートさせたが、その後すぐリーマン・ショックが発生し、転職を考えはじめる。
「外資系コンサルティング会社で面接したとき『会計知識を鍛え直して資産運用の世界でがんばりたい』と話したら、そういうやつは運用会社へ行けと言われました。そりゃそうですよね(笑)。でも、リーマン・ショックのせいでどこも門戸を閉ざしていました」
するとチャンスが舞い降りてくる。
「日本でははじまったばかりだったツイッターに、留学や転職のこと、資産運用への熱意を日々投稿していたらダイレクトメッセージが届いたんです。レオスの藤野英人社長からでした。
フォーシーズンズホテルのロビーで待ち合わせたんですが、いきなり『三越百貨店で鳥取物産展があるから、見に行くぞ』と。運用や金融の話はなく、藤野社長は『梨、うまいな』と言って喜んでいました。僕も『メロン、甘いっすね~』って」
2009年、レオスに入った佐々木さん。だが、2013年に退職してヘッジファンドに活躍の場を求めた。
「ダーウィン・キャピタル・パートナーズに行きました。転職して収入もポジションも上がったんですが、倉敷にいる父が病気で倒れたので辞めました。その後の身の振り方を藤野社長に相談したら、あっさりと『じゃあ、戻ってくる?』。うれしかった」
レオス退社時、藤野さんは佐々木さんに『出戻りOKよ』と声をかけていた。戻ってきてほしかったのだろう。
株式にも旬がある。
工夫の余地は大きい
佐々木さん担当の「ひふみ投信」シリーズは、企業調査を踏まえて主に国内の成長銘柄を選ぶアクティブ型だ。
「株式にも旬がある。夏には成長株が上がり、年末は相場全体が上がる傾向があります。選挙前になると動き出す銘柄もあります。
こうした特徴のある銘柄を脇役に、中長期の成長が期待できる銘柄を運用のメインに据えるのが基本的な考え方です。成長して株価が上がる可能性を秘めた企業は多く、工夫の余地は大きい。
インデックス型だと株価指数の構成銘柄はすべて買わねばならないので、旬ではない銘柄まで機械的に組み入れることになります」
これが佐々木さんの本音だろう。もちろんインデックス型投資信託を否定しているわけではない。ただ、それ以上にアクティブ型であるひふみ投信シリーズが好きで、熱を込めて運用している。
そんな佐々木さんは就学前の2児のパパ。多忙な中、週3回は夕食を作る。
「妻に好評なのはマーボー豆腐です。子どもたちには辛くないあんかけ豆腐を出します。私は小学生の頃からずっと、ほぼ毎日、夕食の準備を手伝っていました。
『これからは男も家事と育児をできるようにならないと』と繰り返していた母の教育の成果ですね」
世の中には約6000本もの投資信託がある。ただ、設定から10年以上経っても勢いが衰えないものは少ない。
佐々木さんは「無難な幕の内弁当より特徴のある弁当、自分好みの食事を丁寧に作っていきたいと思います」と、料理に例えた。
米国株のインデックス型投資信託全盛の一方でひふみ投信が支持されてきたのは、投資家に最高の味を提供してきたからだろう。
(構成/編集部・中島晶子、伊藤忍)
※『AERA Money 2022秋冬号』から抜粋