日本の国技のひとつでもある相撲に、一定の保守的な価値観や規律を課すのは確かに大事です。しかし、朝青龍や白鵬に対する否定や批判は、ただの「やっかみ」にしか見えないものが多かったように思うのです。ひたすら強い外国人に対して「品格」などという荒唐無稽とも言える概念を振りかざすって、それこそ品位や民度に欠ける行為じゃないのか? ましてや勝負の世界なのに、です。
白鵬さんの気質を見聞きする限り、必ずしも万人が付き合いやすい人柄ではなかったようですが、そこを非難する人たちには「わがままと気まぐれはスターの必須要素」であるという根本的な現実を受け入れる度量が圧倒的に足りていない。天下人(スター)の魅力というのは「はみ出ている」ところにこそあるのに、どうしてそれを叩くことしか能がないのか。他人に謙虚さばかりを求めるのは、世の中が経済的にも精神的にも貧しい証拠です。それでいて「近頃は圧倒的スターがいなくてつまらない」などとわがままを抜かす。
どうせ何年かすれば、世間は「史上最強の横綱・白鵬」を手放しに讃え、下手すりゃ憐れむ風潮すら出てくるのでしょう。しかし「白鵬に対する仕打ち」は、日本をさらに「スターの生まれにくい国」にしてしまった気がします。これは取り返しのつかない損失です。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2021年10月22日号