ミッツ・マングローブ
ミッツ・マングローブ
この記事の写真をすべて見る

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「白鵬引退」で感じたこと。

【写真】引退会見で涙をこらえる白鵬

*  *  *

 テレビの大相撲中継を観なくなってどのくらい経つでしょうか。実家にいた頃は、場所中は常にNHKがついており、何気なく「結びの一番」まで観るのが習慣だったため、今場所は誰が好調で、番付はどのようになっているかぐらいはいつも把握できていました。先日、「横綱・白鵬が引退」というニュースに母親が大騒ぎをする横で、大相撲に対する熱量がだいぶ薄れてしまったことを実感した次第です。

 白鵬が横綱になったのが2007年。私が実家を出たのも確か2007年。よって私の「大相撲の記憶」が、それ以前の朝青龍や魁皇や千代大海あたりで途切れているのも合点がいきます。あれから14年もの間、白鵬はずっと綱を張り続け、大相撲界を牽引してきたのかと思うと、遅ればせながら彼がどれほど強い力士だったのかが分かると同時に、歴史的にもとんでもない時代を見過ごしてきてしまったのだと後悔の気持ちでいっぱいになります。何でも数字でしか物事を評価できない日本人の気質はあまり好きではありませんが、それでも改めて白鵬が打ち立てた記録の数々を見るにつけ、「なんでこんなに凄いことが起こっていたのに、私は大相撲を観ずにいられたのか?」と不思議になるほど、彼の残した数字は突き抜けている。

 もちろん彼が長らく横綱に在位し、歴代最多の優勝回数を重ねていたのは知っていました。と同時に、その相撲や言動が様々な物議を醸していることも目や耳に入ってはいました。実はここに、私の心が大相撲から離れていった要因があるのです。

 かつて曙や朝青龍もそうでしたが、「外国人力士」と言われる人たちが角界を席巻するとともに、急に世間が「横綱の品格」なんて言葉を声高に叫び始めるあの感じが、どうにもこうにも気持ち悪かった。

次のページ