さらに、井上の“常人離れ"したストイックさを感じた瞬間として、村山さんは以下のようなエピソードを教えてくれた。
「低酸素トレーニング中は常に血中酸素飽和度という血中の中にある酸素の量を計測しながら行っていきます。ボクサーの皆さんは心肺機能が強く、通常のトレーニングではこの数値があまり下がらない方が多いのですが、そこを敢えて強度の高いトレーニングを行って、数値が下がったのを見て喜んでいらっしゃったのには驚きました」
このように、トレーニングを見守るジムのスタッフからは井上が自らを追い込む姿に驚愕したという話が後を絶たない。
また、少し話は逸れるが、ボクサーは「身体が固い」というイメージもあるが「一度、スタジオで行えるヨガホイールを少し体験していただいた際に背中を反る後屈のポーズがとてもしなやかで驚きました」と身体の柔軟性があるという意外な話もしてくれた。
もちろんボクサーとしてリング上での強さもケタ違い。プロ入り後から井上の成長を見守り続ける大橋氏は「ボクサーとして国内外どこであっても、どの局面であっても、決して慌てることがないのが凄い部分です。19年11月のWBSS決勝のドネア戦でも分かる通り、眼窩(がんか)底を骨折し、かつ片目が何重にも見えてしまうような状況でも最終ラウンドまで冷静でした。気持ちと身体は熱いのに頭は常にクールなのです。言葉にするのはたやすいですが、行動に移すとなると本当に難しい。それをいとも簡単にやってしまうのです」とリング上での“冷静さ”を絶賛する。
ただし、ここまではあくまでボクサーとしての姿。時に28歳の青年としての表情も見せてくれる村山さんは語る。
「お会いする前は、“モンスター"と呼ばれているだけあって、武闘派で少し怖いイメージがあったのですが、実際にお会いすると、リングの外ではいつも気さくに笑顔でお話してくださり、普段からとても礼儀正しく爽やかな好青年!という印象に変わりました。また、弟の拓真さんとお2人で練習にいらっしゃることも多く、お互い切削琢磨して今のお2人の強さがあるのだろうと思い、兄弟の絆を感じております」