■「最低賃金並み」の人がこの20年で倍増した
待遇が改善しているように見えるが、賃金に詳しい都留文科大学の後藤道夫名誉教授によると、「最低賃金並み」で働く人(低賃金労働者)の割合は、この約20年で倍増していると指摘する。
厚労省の賃金構造基本統計調査をもとに、社員5人以上の企業を対象に試算したところ、最低賃金の1.1倍未満で働く人の割合は2001年に4.4%だったのが、20年には14.2%に増えていた。1.2倍未満は8.4%から23.7%に、1.3倍未満まで広げると12.7%から31.6%になっていた。
後藤氏は低賃金労働者が増えた理由について、(1)最低賃金の上昇、(2)雇用構造の変化、(3)日本型雇用の縮小──の3点があると指摘する。
「最低賃金の全国平均は01年度の663円から20年間で267円上昇しましたが、それに伴い最低賃金近くの水準の人が増えました。また、非正規労働者の割合が4割近くに達するなど雇用構造も変化しました。正社員でも年功型賃金や長期雇用など日本型雇用が崩れ、勤続年数とともに給料が上がる正社員の雇用が縮小しているためです」
最低賃金では最低限の生活さえ苦しい。時給930円で週40時間働いても、年収は190万円程度。節約しながら、何とか生活できるのが現状だ。
そもそも日本の賃金水準は、他の先進国と比べても低い。経済協力開発機構(OECD)によると、20年の平均賃金(購買力平価ベース)は3万8514ドル。加盟35カ国中22位で、19位の韓国にも抜かれている。主要先進国(G7)の中では下から2番目だ。
なぜ、日本の賃金は低いのか。経済評論家の森永卓郎氏はこう話す。
「20年前まで日本の賃金水準はG7の中でトップでした。それが最低水準にまでなったのは、01年に始まった小泉純一郎政権以降の緊縮財政が大きな原因です。安倍晋三政権では、金融緩和でアクセルを踏みながら財政政策でブレーキを踏むという、異常な運転をしていました。金融緩和を進めたことで株価は上がり続けましたが、極度な財政引き締めによって景気は失速し、実質賃金も上がらなくなったのです」
同時に、正社員をどんどんリストラして非正規社員を増やし、賃金を抑え込んできたことも、低賃金が固定化した大きな要因だという。その結果、年収200万円を維持することさえ困難になり、結婚できず、子どもをつくれない若者が増え、少子化につながっていると指摘する。
「解決のために一番効果があるのが、最低賃金を引き上げることです。法律で決められていますから、確実に給与は上がります」(森永氏)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年11月1日号より抜粋