実は先進国の中でも低いといわれる、日本の給与水準。アルバイトで生計を立てる人にとっては、これが大きな不安となっている。なぜ日本の最低賃金は上がらないのか。AERA 2021年11月1日号で取り上げた。
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夢は早く楽に死ぬことだった。
東京都内に住むフリーライターの和田靜香さん(56)は、振り返る。
「アルバイトだけで暮らしていると先が見えないじゃないですか。そうすると、これからどうなっちゃうんだろうって。だから、『死にたい』が口癖で、半分本気でした」
27歳の時、音楽ライターとして独立した。すでにバブル経済は崩壊していたが、音楽業界はまだ活気があり、仕事は順調だった。だが、年を重ねるごとに仕事は減った。さらに40代半ばになるとCDが売れなくなり、仕事が極端に減った。生活のため、掛け持ちでアルバイトをした時期もあった。
コンビニ、パン屋、スーパー、レストラン……。時給は、その時々の最低賃金だった。最初に働いたコンビニは850円。2年間働いたが、1円も上がらなかった。年収は常に200万円を切り、貯金はわずか。一人暮らしだったこともあり、食べるものがなくなるほど困窮することはなかったが、先の見えない不安にいつも苛まれた。
「具合が悪くなったりして働けなくなると、お金が入ってこないわけだし。死ぬ以外に策が考えられなかったです」
今はお金が尽きれば生活保護に頼ればいいとわかり、死ぬことは考えなくなった。9月に『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)を出版すると、“政治本”としてはすでに2万1千部が売れる異例のヒットとなった。印税が入り、延滞していた国民健康保険料も払えるようになった。
でも、これからもバイトに頼らなくてはいけないだろうと思うと、心配は尽きないと話す。
「やはり一番は、最低賃金を上げてもらいたいです」
最低賃金は企業が従業員に支払う最低基準額。働く人たちの生活の安定を図るため最低賃金法で定められている。下回った企業には罰金が科される。厚生労働省の審議会が毎年示す“目安”を参考に、都道府県ごとに額が決まる。今年度は全国平均で28円アップの930円(時給換算)。上げ幅の平均は3.1%だった。