放送作家でコラムニストの山田美保子氏が楽屋の流行(はや)りモノを紹介する。今回は『十和田』店主、冨永照子さんを取り上げる。
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いわゆる“街ぶら”や、下町紹介ロケなどで在京テレビ局の番組が頻繁に訪れていたのが浅草。もちろん高視聴率が約束されているからである。だが、ご存知のとおり、コロナの影響で観光客が激減し、過去最大級の危機に見舞われている。
そんな中、また、この方が立ち上がった。
「一般社団法人ニッポンおかみさん会」会長で、「協同組合浅草おかみさん会」理事長。“おかみさん”の代名詞的存在の『十和田』店主、冨永照子さんだ。手打ちそば『十和田』は、著名人の顧客が多いことで知られるが、尾上松也さんは取材が入ると必ず「行きつけの店」として紹介している。
冨永さんは1964年の東京オリンピック直後から浅草復興のために尽力。「二階建てロンドンバスの導入」、「浅草サンバカーニバル」「浅草・ニューオリンズ・ジャズフェスティバル」などを開催、さらには、浅草寺のライトアップ、つくばエクスプレスの誘致などなど、華々しい活躍ぶりだ。
当然、テレビ番組にも何度も出演してきた。記憶に新しいところでは、一昨年9月の『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)だ。同局の弘中綾香アナが「どん底だった浅草を回復させた蕎麦屋の女将」「ゴーストタウン一歩手前だった浅草を日本有数の観光地として蘇らせた伝説の女将」とプレゼン。その規模の大きさに、MCのオードリー若林正恭さんは終始、目を丸くしていた。“1周回って”若林さんは冨永さんのことを知らなかったようだが、浅草界隈の噺家や芸人にとっては、神様のような存在。冨永さんがタダでゴハンをご馳走してくれたお陰で修業時代を乗り越えられた人が大勢いるそうだ。
「最後の奉公として、浅草に、食事の後に立ち寄れるようなコントやレビューが見られる劇場を建てたい」と意気込む冨永さん。資金については、昔から「小さいお金は使う。大きなお金は(出資して)もらう」をモットーにしているという。
そんな金言が綴られた著書『おかみの凄知恵』の出版イベントが『浅草ROX』の『まつり湯』で行われた際に駆け付けたのは、故・東八郎さんの次男「東MAX」こと東貴博さん。冨永さんへの謝辞と共に復興大将に名乗りをあげた。在京各局は再び冨永さんの元を頻繁に訪れることになりそうだ。
山田美保子(やまだ・みほこ)/1957年生まれ。放送作家。コラムニスト。「踊る!さんま御殿!!」などテレビ番組の構成や雑誌の連載多数。TBS系「サンデー・ジャポン」などのコメンテーターやマーケティングアドバイザーも務める
※週刊朝日 2021年11月12日号