週刊朝日ムック『さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん2022年版 コロナで注目!在宅医療ガイド』より

 その後は、歯科衛生士による口腔衛生管理(口腔ケア)を継続して、歯を失うことを防いでかみ合わせを維持し、口から食べる生活を続けられるように支援します。  

 また、口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防にも有効です。経管栄養で口から食べていない人でも、口腔ケアが重要です。

「健康な人は、口の粘膜の垢(剥離上皮)や細菌を唾液で洗い流し、食事と共にのみ込んでいます。そのような口の自浄性が失われているので、口から食べない人のほうが口は汚れやすいのです」(同)

 認知症の人も、口が汚れがちです。自分で十分に歯磨きができず、周囲の人のケアを嫌がって拒否することも多いからです。この場合には、信頼関係をつくるところから口腔ケアが始まります。

「笑顔で目を合わせ、からだの中心から離れた手や肩などからタッチする、歯ブラシを手に当てて慣れてもらうなどのノウハウがあり、それを使うことで、認知症の人も口を開けてくれます」(同)

 口の持つ食べる機能は、生きるための土台であり、食べることで表情が豊かになり、生活への意欲が生まれます。しかし、全身状態によっては、口から食べるのが難しくなっていきます。

週刊朝日ムック『さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん2022年版 コロナで注目!在宅医療ガイド』より

「私たちは、最後の食べるチャンスを逃さず、好物を食べたい・食べさせたい、家族と外食したい・外食させてあげたいなど、本人や家族の希望をかなえる支援にも取り組んでいます。死期が近づいたときには、家族が顔を寄せてもにおわない尊厳のある口で旅立てるように、看取り期の口腔ケアをおこないます」(同)

 しばらく食べていなかった人でも、好物を食べるなどの目標を設定すると、リハビリテーションへの意欲も高まり、のみ込みやすく調整された好物などをたいらげる例もあります。全身状態によっては、目標の米寿のお祝いを前倒しするなど、食べたいものを食べないまま最期を迎えることのないように支援しています。

 また、看取り期には、口の中は乾燥し不潔になり、出血しやすくなります。飯田歯科医師や歯科衛生士は、剥がすと出血しそうなかさぶたは残し、剥離上皮などの汚れだけをとる、好きな飲み物をガーゼに含ませ舌に当てて味わってもらうなどのケアで、看取りに参加しています。

 多くの家族は、看取り期に口腔ケアは不要と思い訪問歯科を中止します。しかし、こうした取り組みを知れば、よりよい看取りをしたいと希望する家族が増えそうです。

(文・山本七枝子)

飯田良平歯科医師●いいだ・りょうへい
ヒューマンデンタルクリニック院長。日本老年歯科医学会指導医・専門医・摂食機能療法専門歯科医師、日本摂食嚥下リハビリテーション学会評議員

※週刊朝日ムック『さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん2022年版 コロナで注目!在宅医療ガイド』より

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