歌は基本的には、「綺麗」や「心地いい」といったものが求められることが多いですが、お芝居の場合は必ずしもそうではないんですね。ダミ声の人がいれば、声が高い人も、かすれ声の人もいる。声の幅が広ければ広いほどいいな、素敵だな、と思うので、そこは面白いな、と。

──セリフの覚え方には、独特のスタイルがあるそうだ。

井上:早い段階から準備を重ねて覚えるというよりは、直前にまとめて覚えることのほうが多いのですが、覚えるのは苦ではなく、どちらかというと得意ではあると思います。台本を「絵」や「写真」として、丸ごと切り取るイメージで覚えています。たとえば「次のセリフは、右上の端っこにあったな」といったように、台本自体をスクリーンショットしているような感覚です。ページが少しでもズレると、一気にわからなくなってしまうこともありますけれど(笑)。たとえば「一輪車に乗れ」と言われたら、すぐに一輪車に乗れるようにならなければいけないのが役者の仕事。「どうすれば最短の近道で成立させることができるか」を考える癖がついているのかもしれません。

■新参でも常連でもない

──KERAの台本は、稽古と同時進行で書かれていく。物語の先がわからないことに対し不安は感じてはいなかったという。

井上:ずっとお芝居を中心にやってこられた役者さんであれば、「物語の全体像を把握したい」「背景をきちんと勉強して役を作り込みたい」という方もいらっしゃると思います。けれど、僕は最初から芝居を中心にやってきたわけではないということもあり、「台本の続きがないのなら、ないなりにやってみよう」という気持ちが強いのかもしれません。「続きがわからない」という状況にはあまりストレスを感じてはいませんでした。

──普段は演劇の外側にいるからこそ、見えてくることがある。

井上:緒川たまきさんら、KERA作品の常連である役者さんたちのお芝居を見ていると、テイストを早い段階からつかんでいらっしゃるなと感じますし、逆に今回初めてKERAさんの作品に出演される方へのKERAさんの演出を見ていると、やはりはっきりとした方向性のもと、演出をつけているのだな、と感じます。語尾やアクセント、テンションにはKERAさん特有のものがある。僕はKERA作品に参加するのは3度目なので、「初めてではないけれど、常連でもない」という立場です。早く独特の世界観のなかに入っていきたいと思う半面、はたして僕がKERA作品の常連の役者さんのような演技をして、それが求められているのかどうかはわからない。「どういう方向を目指せばいいのかな」と思いながら稽古をしていることもありました。

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