
「ビートルズで人生が変わった人はたくさんいる。僕らは直接体験できなかった世代だけに、欠落を埋めるかのように、追いかけ続けるのかも」
ちなみに、日本で特に愛されるビートルズナンバーが「レット・イット・ビー」。好きなビートルズの曲をラジオ番組で募るといつも1位はこの曲という。
今回の大型企画を可能にしたのは、69年1月いっぱい行われた彼らの新曲のリハーサルやレコーディングに密着して得た57時間の映像と、150時間の録音記録の存在だ。
■完璧なコンテンツ
ポール主導で、観客前でのライブ演奏を含むビートルズのテレビ番組が企画され、撮影隊が1月2日からスタジオの4人に密着した。
ジョンとジョージはやる気を見せず、特にジョージはライブ公演に反対。自分の曲の扱いにも不満を募らせ10日、「脱退」する。「後釜にはエリック・クラプトンを入れよう」とジョンは皮肉るが、ポールと自分はジョージに不誠実だったと語る。
ライブショーなし、アルバムを作る条件でジョージは数日後に復帰。場所を本拠地のアップル・ビルのスタジオに移す。バンドは軌道に乗り、30日、ビル屋上での演奏を敢行する──。
長く米国に住み、著書『ビートルズは何を歌っているのか?』(18年)で歌詞を掘り下げて注目された朝日順子さん(51)は一昨年、録音CDによるセッションの会話を聴いた。
「解散の話も出るけど、笑いもいっぱい。『ゲット・バック』はポールがジョンに歌詞を相談するなどみんなが協力して作っている。彼らの率直で人間的な姿に、さらに好きになりました」「ビートルズって、あらゆるニーズに対応できる。彼らの楽曲を愛するのはもちろん、グループの史実を研究したり、物語としても楽しめる。専門分野を持つファンも多い。コンテンツとして完璧なんです」
69年1月にゲット・バック。(ライター・小北清人)
※AERA 2021年11月15日号

