AERA 2021年11月15日号より
AERA 2021年11月15日号より

 素朴な疑問がある。

 2017年から、彼らの古いアルバムの発売50周年記念特別版が出るたびに、筆者は約2万円も出し、無条件に、最も高いのを買ってしまう。同世代にもいるだろう。なぜなのか?

「僕ら世代は一杯の飯を抜いてもデラックス版を買う思いに駆られる。ビートルズを知り尽くしたい願望がいつまでも消えない」

 と話すのはシンコーミュージック・エンタテイメント取締役の吉田聡志さん(61)。シンコーといえば60年代のミュージック・ライフ誌のビートルズ単独取材で有名だ。吉田さんはビートルズ関連の出版企画やイベント制作も担当する。

 東京生まれ。よく聴いていたチューリップの財津和夫さんがビートルズ好きと知り、後期名曲を集めた「青盤」を買ったのが70年代前半、中2のとき。解散後に彼らの虜(とりこ)になった「後追い世代」である。

■人生が変わった

 次はどのアルバムを買おうかと悩む毎日。4人のソロアルバムも名作が相次ぎ、個々のシングル曲が争うようにラジオの洋楽ベスト10上位に。まるでビートルズが何人もいるようだった。

「音楽に夢中で、ある程度自由に使える小遣いができるのが中学時代。日本では60年代より70年代前半の方がビートルズの情報が豊富で、むさぼるように吸収した」(吉田さん)

 再結成の夢も常にあった。80年12月にジョンが狂信的ファンに撃たれるまでは。

 多感なころに熱烈ファンとなり、長じてからは、その魅力を伝える側に。コマダダの永沼さんも70年代前半、ポールのアルバム「バンド・オン・ザ・ラン」との出合いが始まりだ。

 11月下旬に配信公開される作品の監督で米アカデミー賞受賞者ピーター・ジャクソン(60)は吉田さんと同様、「青盤」「赤盤」で夢中になった。

 ビートルズならこの人、と書き手として定評がある藤本国彦さん(60)も同世代だ。中学生のときに兄の「シー・ラヴズ・ユー」のレコードで初めて知った。日本での最初のアルバムから発売順に作品を聴くという「ビートルズ道」まっしぐらの人生を進んだ。ジョンが亡くなった日の記憶はいまも生々しい。音楽専門誌「CDジャーナル」編集長を経て15年からフリーで書き続ける。

次のページ