
■人と寄り添う感覚を大切に
いろんな人の立場を想像する癖がついているせいか、SNSの時代になって事件が起こるたび、一方だけがバッシングされてしまう風潮には危機感を抱くようになった。
「バッシングにさらされている人がいたとしますよね。でも、そういうときに、なぜそういう行動をとってしまったのか、少しでも理解しようと寄り添う感覚って、人とコミュニケーションをとっていく上で、すごく大事だと思うんです。私が演劇をやっていてとくに面白いと感じるのは、自分の欠陥や、愚かさ、情けない部分をさらすことができるところです。とくに空間がキュッとしていて、いちばん後ろの席でも、役者の表情の違いまで見える小劇場の空間は、俳優の人間的な部分を伝えやすくて、好きです」
映像作品では、人間的な部分というより、「できた人」を演じることが多かった。正義感の強い弁護士、人間的によくできた医師、人間離れした能力のある人……。それぞれに演じがいはあったが、与えられた役に対しても、「できた人物」の中に潜む、弱くて人間臭い部分を探りたくなった。
「メジャーな作品の主要キャストがお手本であることが求められるのは仕方がないこと。ただ、私の体質として、真っ当なものばかりに触れていると、少し息苦しくなってしまうというのがあって(笑)。ときどきでも、自分の中にあるひねくれた部分や、愚かな部分を、舞台でさらしていくことが必要なのかも。……なんていろいろ言ってますが、別に今度の舞台で難しいことを伝えたいわけじゃない。楽しんでいただければそれでいいです」
それにしても、水野さんの肩書は多い。母で妻で俳優で物書き、稽古が始まれば演出家。忙しい中、いつ書き物の時間を作っているのかと聞くと、「基本は子供が寝てから。夜の作業が多いですね」と言って、書き物がある日の一日のスケジュールを教えてくれた。
「幼稚園にお弁当の日と給食の日があって、お弁当の日は7時半ぐらいから準備を始めます。すごく締め切りに追われていたら、5時とかに起きて書いたりもするんですが、夜のほうが圧倒的にはかどります。9時までに幼稚園に子供を送っていったあと、エッセーだったら近くの喫茶店で書いたりすることもあります。子供を迎えに行く2時までの間に、買い物も済ませておいて、そのあと習い事に連れていったりして、6時ぐらいに先に子供だけ夕食を食べさせます。7時半から8時の間に寝かしつけて、読み聞かせもその時間にします」