長野県で行われた「高原の縄文王国収穫祭」での物々交換に出された柿。他にもさつまいもや栗などの収穫物、手作りの手芸品などが出品された
(photo 井戸尻考古館提供)
長野県で行われた「高原の縄文王国収穫祭」での物々交換に出された柿。他にもさつまいもや栗などの収穫物、手作りの手芸品などが出品された (photo 井戸尻考古館提供)
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 お金を介さず、物と物を直接交換する“物々交換”。原始的なこの手法が今、人と人をつなげ、交流を生むなど、新たな価値をつくり出しているという。AERA2022年11月14日号の記事を紹介する。

【図解】物々交換プラットフォーム「Chain」で実際に起きた交換はこちら

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「カワハギ物々交換したい方はDMください」

 都内のIT企業に勤務する30代の男性はそうツイートした。この日、自分で釣ってきたばかりの新鮮なカワハギだ。

 コロナ禍で在宅勤務が増えたのをきっかけに、神奈川県の中でも都内に近い川崎市から自然豊かな逗子市へと移住して2年。釣りと家庭菜園にハマってプチ自給自足の生活を満喫しているが、妻との二人暮らしでは消費しきれないことも多い。そんなとき、物々交換の相手をツイッターで募集するのだという。

 これまでも、収穫したパクチーや自家製セミドライトマトなどをおすそ分けし、旅先のお土産のビールなどをもらった。見返りが欲しいというよりも、自分が作った野菜や釣った魚を「おいしいから食べてみてほしい」という気持ちが強いという。カワハギの肝などは釣りたてでしか味わえない絶品だからだ。

 知り合いの少ない移住先だったが、こうしたやりとりをきっかけに、家族ぐるみで食事をしたり、釣りの約束をしたり、ゆるいつながりができている。

 物々交換──。なんとも原始的な経済の形だが、お金を介さない分、人とのつながりや新たな価値を生み出す物々交換が注目を集めている。

■宅配のアイデアも得る

 青森県弘前市のりんご園・工藤農園のウェブサイトでも、同園で作ったりんごやりんごジュースと、全国の産地直送品との交換を募っている。

 20年ほど前からこの試みを始めたというのは、同農園代表の工藤貴久さん(49)だ。当時、まだネット販売が今ほど普及していなかった頃。通販用の箱やチラシなど、同業者はどうしているのだろうと気になって始めたのだという。

 以来、「物々交換の依頼は年間を通してコンスタントにあります」と工藤さん。毎年恒例になっている相手もいるし、新規でも年10件以上の申し出がある。

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