若い世代のひきこもりは54万人に上る。近年はひきこもり状態の長期化傾向があり、その社会復帰が大きな課題となっている。本人や家族が袋小路にはまってしまったとき、実は、救いとなるのが第三者の存在だ。地域で暮らす第三者が偶然手を差し伸べ、その手を逃さず掴んだことで、人生がうまく回り出した元ひきこもりの男性とその家族を取材した。
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甲斐成幸さん(仮名)は現在、29歳。3年前から清掃会社で非正規社員として働いている。
仕事は地域のゴミ収集だ。月曜から土曜まで、朝7時に家を出て職場に行き、ゴミ収集車に乗り込む。収集を終えた後も車の掃除などの作業があり、仕事を終えるのは17時。体力のいる仕事だ。夏は暑さで汗びっしょりになるし、雨や雪などどんな悪天候でも休むことはできない。
今の仕事に就く前の成幸さんは、「ひきこもり」だった。不登校を機に中学時代からひきこもりを繰り返していた。
成幸さんに、ひきこもりを脱するまでの話を聞かせてほしいとお願いしたところ、「お父さんと一緒なら」という返事があった。日曜日の午後、チェーン店のコーヒーショップで待ち合わせた。
父親と一緒に現れた成幸さんは、体格のいい健康そうな若者だった。ふだんあまりこういう場所に来ることはないのか、店内を珍しそうに見まわしていた。質問すると、声は小さいが、こちらの目を見てちゃんと答えてくれた。今でこそ、ごく普通の親子にみえるが、本人にも家族にとっても出口が全く見えない時期を経験していた。
◆「行きたくない」 突然、学校でバットを振り回した
成幸さんは、4人きょうだいの一番上だ。小学生までは、人見知りの面はあったが普通の活発な子どもだった。中学に入ってからも、勉強はあまり好きでなかったが、柔道部に入って頑張っていた。それが中学1年生の途中で、不登校になった。
成幸さんが学校に行かなくなった日のことを、母親はよく覚えている。
「ある日突然、行きたくないと言い出したんです」