音楽は、「時間の芸術」と言われる。東儀さんも、篳篥(ひちりき)に息を吹き込むとき、自分の吹く時間だけが存在して、息を止めると音がなくなることに、刹那の美を感じている。

「絵画はずっとそこに存在するけれど、音楽というのは、鳴っているときしか生きていない。だから、その瞬間瞬間、悔いがないように奏でるしかない。自分の息が音になる瞬間こそ、生きることそのものだと思う」

 そんな父を見て、中3の息子・典親くんは「パパみたいに、篳篥もロックギターもうまくなりたい」と言うらしい。最近、メディアに出るようになった典親くんだが、中傷を気にする年代だからと、「この世界は、アンチがついて一人前だぞ」と東儀さんがアドバイスした。

「そうしたら先日、満面の笑みで、『ついにアンチからコメントが来たよ!』と報告されました(笑)」

(菊地陽子 構成/長沢明)

東儀秀樹(とうぎ・ひでき)/1959年生まれ。東京都出身。幼少期を海外で過ごし、ロック、クラシック、ジャズ等の音楽を吸収。高校卒業後、宮内庁楽部に入り、宮中儀式や皇居での雅楽演奏会、海外公演に参加。96年にアルバムデビュー。蜷川幸雄演出舞台「オイディプス王」で舞台音楽を担当するなど、雅楽器と現代音楽を融合させた独自の音楽活動を展開。最新アルバムは「ヒチリキ・ラプソディ」。

週刊朝日  2021年11月26日号より抜粋

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