なぜなら、小児性加害者は特定の状況や条件下で加害行為を衝動的に繰り返すという特徴があるからだ。そして、こうした性的嗜好は治療したとしても治ることはないという。
「薬物依存症と似ていますが、脳の報酬系と呼ばれるところに加害行為を繰り返すことで条件付け(クセ付け)の回路ができ、何かのきっかけで特定のトリガー(引き金)が引かれると『子どもに性加害をしたい』、という抑えられない衝動がわいてしまうのです。本人も、その衝動を抑えようとあらがいますがその試みに失敗を繰り返します。過去に児童に性加害を繰り返し、その後は20年以上、プログラムに取り組むことで対象行為から遠ざかっている加害当事者がいますが、今も小児科の看板の『小児』の文字を見ただけで衝動のスイッチが入り、自分自身が危険だと感じることがあると言います。こうした人を再び子どもと関わる職業に就かせることが何を意味するか。絶対的な力関係がある中で、子どもと関係性を持つことがトリガーになることは言うまでもありません」(斉藤氏)
斉藤氏は児童に性加害を繰り返してきた数多くの元教員たちに治療現場で会い、ヒアリングをしてきた。こうした大人は、怪しい見た目をしている人との印象を持たれがちだが、実際は違う。見た目に特徴的なところはなく、人当たりもマイルド。児童だけではなく親からの人気も非常に高く、さらに同僚や上司の評価も良い人が多いという。
「私は『ペドフィリア・フェロモン』と呼んでいますが、彼らには共通して、気持ち悪く感じるくらい独特の優しさがあります。とにかく話をよく聞き、共感し、受容能力が高い。カウンセラーに必要な要素を、カウンセラー以上に兼ね備えています。親から否定されてばかりだったり、友達関係がうまくいかなかったりして孤独感を感じている子どもは、初めて自分の気持ちを理解してくれたいい先生だと信じてしまいます」
グルーミングという言葉で知られるようになったが、手なずけられそうな児童をその熟練された嗅覚で選び、“優しさ”で少しずつ支配していく。徐々に性加害行為に及んだうえで、「誰にも言っちゃいけないよ。言ったらどうなるか分かってる?」などと口止めし続けるのが定番の手口だ。女の子だけではなく、男の子がターゲットになる事例も多いという。