AERA2022年11月14日号より
AERA2022年11月14日号より

 とにかくグラナダでの景色がすごくきれい。サクロモンテの丘から眺める街並みや、家の中庭にさす木漏れ日。出てくる食事も「食べたい!」と思わせるものが多く、グラナダでの生活の息吹が丁寧に描かれます。グラナダという土地に思いをはせることができる作品ですね。

『鍋に弾丸を受けながら』は、ノンフィクションをベースにした漫画です。釣り好きの主人公が世界各地の釣り場に行くんですけど、その人のコンセプトが「危険な場所にほど美味(うま)いものがある」なんです。たとえば、メキシカンマフィアの抗争で荒廃したメキシコの町で食べる「マフィアの拷問焼き」に、エルビス・プレスリーの死因とも言われるアメリカの「エルビスを殺したサンドイッチ」。どんな料理かは、ぜひ読んでいただきたいのですが、「行きたい! 絶対行かないだろうけど。でも食べたい!」と、ある意味、旅情をかきたてられます。

 筒井康隆さんの『旅のラゴス』はSF小説です。高度な文明を失った代わりに、予知能力など、いろいろな超能力を持つ人たちの住む世界で、ラゴスは北から南へ、また南から北へと、旅をし続けます。ラゴスは学者であり、旅人であり、土地によっては奴隷になったり、王様になったり。旅の先々では、危険な目にも遭うし、大切な人が亡くなることもある。それでも、彼は目的の場所を求めて旅をやめない。彼は常に旅のただなかにあるんです。この本を読むと、「生きるってこういうことだよな」と思います。人生は常に流転しつづけるし、ゴールを越えたと思ったらまた新しいゴールが出てくる。同じ場所にいても、目的は常に変化していくものですよね。

(構成/編集部・大川恵実)

■旅情気分に浸れる本

旅の気持ち思い出す一冊

『エストニア紀行森の苔・庭の木漏れ日・海の葦』/梨木香歩/新潮文庫

おぼろげな感じがとても楽しい

『死ぬまでに行きたい海』/岸本佐知子/スイッチ・パブリッシング

『鍋に弾丸を受けながら』/青木潤太朗・原作、森山慎・作画/角川コミックス

『あかねさす柘榴の都』/福浪優子/ハルタコミックス

『旅のラゴス』/筒井康隆/新潮文庫

AERA 2022年11月14日号