首都・東京の「分散」はあるのか(写真部・馬場岳人)
首都・東京の「分散」はあるのか(写真部・馬場岳人)

 国会については、より柔軟な仕組みも可能という。

「国会議事堂でなくても国会は開けます。国民体育大会のように毎年開催場所を変えるのもいい。地域への経済効果も期待できます」(同)

 日清戦争が始まった1894年。明治政府は、中国への軍事展開の拠点だった広島に大本営を移し、国会も開催したことがある。

はびこる「昭和の教育」

 坂本龍馬の「日本を今一度せんたくいたし申候」の言になぞらえ、「日本の“洗濯”も兼ねて、政府機能のスリム化のために首都移転を進めるべきだ」と唱えるのは、日本総研調査部主席研究員の藻谷浩介さん(57)だ。

「引っ越しを機会に、家財を整理するのと同じです。各省庁や国会を、できれば別々の場所に移転させ、紙と面談から、磁気記録とデジタルでのやり取りへと、業務手法を刷新します。口頭の根回しでの“合意”から、デジタルを使った“意思決定”に、基本を切り替えるのです。過去の公文書は磁気化して保存しますが、移転先に書類棚は要りません」

 藻谷さんは「東京は巨大なドメスティックの袋小路」という。

「官僚は東京の“教育環境”にこだわる。でも東京にあるのは、世界に通用しない国内限定エリートを養成する、“昭和の教育”。イチロー、松山英樹、大谷翔平、孫正義と、真に世界に通用する人材には、東京の教育を受けていない人が多いのです」

「にほんの“洗濯”もかねて…」と首都移転を提唱する藻谷浩介さん
「にほんの“洗濯”もかねて…」と首都移転を提唱する藻谷浩介さん

 都の貴族集団のような在京エリートは、国際化で力を失っていく、と藻谷さんは言う。

「地域と世界が直結する“グローカル化”が進み、東京は次第に、仕事ではなく遊びで行く街になっていきます。トヨタが典型ですが、国際競争に強い企業の本社は、意外に東京にはありません」

 20年の東京都の合計特殊出生率は1.13。全国最低だ。

「出生率の低い首都圏に若者を集めたことが、日本の人口減少の最大の原因です。時間と空間にゆとりがあり、出生率の高い地方の価値を見直さないと、この国は本当に消滅してしまいます」(藻谷さん)

(編集部・渡辺豪)

※AERA 2021年11月29日号

首都・東京の「分散」はあるのか(写真部・馬場岳人)
首都・東京の「分散」はあるのか(写真部・馬場岳人)
著者プロフィールを見る
渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

渡辺豪の記事一覧はこちら