風光明媚な那須と環境省は親和性が高い、と朝比奈さんは言う。
「(来年度中とされる)文化庁の京都移転も『日本文化と言えば京都』との親和性があり、うまく進みつつあります。親和性は大事な要素です」
那須は太陽光やバイオマス、小水力発電といった自然エネルギーの宝庫。東京から新幹線で1時間強という距離は、ワーケーションにも適した立地だ。
「霞が関の古めかしいビルや合同庁舎から、最先端のテクノロジーを活用した環境調和型のインテリジェンスビルで仕事をする。日本の中で環境省の職場環境が最高にいい、と言われるくらいの環境を作ってしまうのです」(朝比奈さん)
観光庁の軽井沢移転も、国内有数のリゾート地である親和性や、こちらも東京から新幹線で1時間強という距離が念頭にある。朝比奈さんは「一粒で何度もおいしいのが首都機能移転」だと言う。
首都機能移転は危機管理上のリスク分散にとどまらず、景気浮揚策や地方創生の起爆剤としての効果が期待できる。経産省を退職後、「日本の活性化」を掲げるシンクタンク「青山社中」を立ち上げた朝比奈さんの活動と首都機能移転はシンクロするのだ。将来的には国土の3分の1ぐらい、東京から大阪のエリアが首都でもいい、と朝比奈さんは言う。
道州制を導入して分散
「都知事時代は首都移転の『し』の字も口にできない制約がありました」
苦笑交じりにこう振り返るのは、元東京都知事の舛添要一さん(72)だ。
「都議会や東京選出の国会議員を含め、東京から首都を移転するなどけしからん、といった意識に凝り固まっています」
首都移転の議論は具体的な地名を挙げた途端、地域間のエゴがむきだしになって収拾がつかなくなる、という。このため、舛添さんが知事時代から一貫して唱えているのが、中央集権の弊害の解消だ。その切り札が道州制の導入だという。
道州制は都道府県を廃止し、より広い区域を所管する「道・州」を新たに置くことで、地方の権限を高めるのが狙いだ。06年に地方制度調査会の答申で、全国を10前後のブロックに分ける案が示されたが、議論は進んでいない。
舛添さんは道州制の導入を念頭に、道や州ごとに省庁を分散配置する案を提唱する。
具体的には、中国の海洋進出を考慮して防衛省は九州に、福島第一原発の処理を抱える環境省は東北に、厚生労働省は認知症の治療や予防に適した北海道に、農林水産省は森林が多い中部地方に、文部科学省は文化庁の京都移転とともに近畿地方に──などを挙げる。
「地域間のエゴを避けて分散移転を進めるには、これぐらい大胆でいい」(舛添さん)