東京の一極集中が進んでいるだけに、ドラマ「日本沈没」は首都機能の分散や移転を考えるきっかけになるかもしれない(写真部・馬場岳人)
東京の一極集中が進んでいるだけに、ドラマ「日本沈没」は首都機能の分散や移転を考えるきっかけになるかもしれない(写真部・馬場岳人)

 国レベルで首都機能移転の議論が盛り上がったのは1990年代だ。

 90年に「国会等の移転に関する決議」が参議院と衆議院の両院で可決。92年に「国会等の移転に関する法律」が成立した。95年は1月に阪神・淡路大震災、3月には地下鉄サリン事件が発生。危機管理の観点から首都機能移転の機運はさらに高まり、96年に発足した首相の諮問機関「国会等移転審議会」が、99年に移転候補地を「栃木・福島地域」「岐阜・愛知地域」「三重・畿央地域」の3地域に絞った。

 しかし、現在まで移転は実現していない。ネックは何なのか。

「90年代の『丸ごと移転』の考え方は古いと思います」

 こう話すのは、元経産官僚の朝比奈一郎さん(48)だ。移転には省庁で働く職員の意識・実務両面の抵抗があるという。

「職員は『移転なんて勘弁してくれ』というのが現実です」

「拡都」のほうが現実的

 朝比奈さんが特許庁に出向していた00年、「特許庁の沖縄移転」が浮上した。周囲のほとんどがネガティブな反応だった。「ずっと東京勤務だと思って働いてきたのに、急に沖縄に行けと言われても困る」。こうした不満は、原則転勤がない役所やノンキャリアの職員に多かった。

 官僚の抵抗理由の一つは国会対応だ。例えば、国会議員が質疑の直前に提出する「質問通告」は概要のみのことが多い。答弁案を作る官僚はより詳しい質問内容を把握すべく、議員から真意を聞き取る必要がある。ひざを突き合わせて行うこの実務は「オンラインで」とはいかない。

 これをどう乗り越えるか。朝比奈さんは「東京から離れる」ことを強調しない策を唱える。

「東京をハブとして省庁を各地に分散移転することで首都を拡大する『拡都』が現実的です」

朝比奈一郎さん(写真/本人提供)
朝比奈一郎さん(写真/本人提供)

 東京発着の交通インフラは充実しており、今後はリニアの開通も見込める。

「東京から見ると東京が拡大していく。地方から見ると首都機能の一部を担う。首都を取った、取られたではなく、東京と地方の双方がハッピーというのが拡都です」

 今年5月、自民党の特命委員会が首都機能の分散を求める中間提言を政府に提出した。ここでも地方と東京・首都圏がウィンウィンになる「分散型国づくり」を挙げ、首都圏に残す機能と地方に移す機能を整理するよう提案している。

那須と軽井沢の魅力

 拡都の先駆けとして朝比奈さんが挙げるのが、環境省の那須移転(栃木県那須塩原市)と、観光庁の軽井沢移転(長野県軽井沢町)だ。

「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資やSDGsの流れが強くなる中、環境行政への注目度は高まっています。それを司る役所を、那須という自然豊かなエリアに移すのは象徴的な決断になります」

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