でも、実際には、長い話やオチのない話ならではの面白さというものも存在している。『酒のツマミになる話』では、従来はテレビ向きではないと言われてきた雑談の面白さにスポットを当てているのだ。
もちろん、雑談を軸にした番組はこれまでにもたくさんあったし、いわゆるトーク番組は広い意味で雑談の番組であるとも言える。だが、ほとんどの場合は、話す内容が事前に大まかに決められていたりして、本当の意味で自由に話していいという番組は多くはない。
『酒のツマミになる話』の場合、「ツマミになる」というコンセプトが絶妙である。それは、単にオチがあって笑える話というのとは違う。その場が盛り上がるような話題であれば何でもいいのであり、間口が広く取られている。
酒も入っていて気楽な雰囲気で話せるからこそ、出演者の口から普段は聞けない本音がポロッと漏れることもあり、そういう発言がネットニュースなどで取り上げられたりすることもある。
雑談番組は『酒のツマミになる話』だけではない。たとえば、10月31日にテレビ東京で放送された『中居正広のただただ話すダーケ』という特番も、テーマを決めない雑談番組だった。車座になった出演者たちが「お互いの下の名前を言えるか」「昨日の夕食に何を食べたのか」といった他愛もない話題でトークを展開していた。
コロナ禍は我々からたくさんのものを奪っていった。その1つが、酒を飲みながら親しい人とダラダラと過ごす時間である。そんな飲み会の雰囲気を疑似体験できる雑談系トーク番組は、これからもっと増えていくかもしれない。(お笑い評論家・ラリー遠田)