すでにロシアはマッハ20以上、射程6千キロといわれる滑空ミサイル「アバンガルド」を19年に実戦配備。海上・潜水艦発射型で射程1千キロ以上の「ツィルコン」も、来年から配備する。
米国をさらに驚愕させたのが中国だ。今夏、宇宙ロケットで打ち上げた極超音速滑空体が地球をほぼ一周した後、下降して標的から約40キロ外れた地点に着弾したという。地球を周回したということは、従来の北極側だけではなく南極側からも米本土を攻撃可能になる。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長はその衝撃を「スプートニク・ショックに近い」と深刻な懸念を示した。米国も極超音速兵器の開発競争に加わっているが、後れを取っている。
一方、日本には、今後ミサイル防衛網が無力化されるのを見越し、「敵基地攻撃能力」保有を認めようとの動きがある。半田氏がこうクギを刺す。
「撃ち落とせないなら発射基地をたたくべきではないか、という理屈ですが、日本は中国や北朝鮮のミサイル基地がどこにあるか把握できていないのだから、敵基地攻撃など無理なのです。なし崩し的に憲法改正に持ち込むための口実としか思えません」
極超音速兵器がICBM(大陸間弾道ミサイル)にかわって、新たな軍拡競争の火種になることは避けなければならない。前田氏がこう指摘する。
「冷戦下に米国と旧ソ連が際限のない核・ミサイル競争に陥った際、SALT(戦略兵器制限交渉)を行い、戦略兵器削減条約(START)の調印に漕ぎつけ今日も続けられています。いま、米国は中国との間でも同様にSALTのような話し合いの場を構築しようとしています。お互い手の内をさらさなければ交渉にならないから、実現すれば中国の軍事力が透明化されることになります」
日本は米国の同盟国であると同時に、アジアの一員だ。いまこそ米国と中ロ間の仲介者になるべきではないか。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2021年12月10日号