そのうえ環境省は、従業員の数え方に関して法定労働時間(1日8時間、週40時間)を持ち出し、その時間内で2人以上の職員が週に計80時間労働すれば、30匹の繁殖犬を飼育することが可能だとした。仮に、Aさんが1日8時間×5日(週40時間)、Bさんが1日4時間×5日(週20時間)、Cさんが1日4時間×5日(週20時間)働くとする。ある1日を切り出してみれば、Aさん1人で30匹の繁殖犬の面倒を見ている日もあれば、午前中4時間はBさん1人、午後の4時間はCさん1人で引き継ぐ日もありうる。環境省動物愛護管理室は「1人しかいない状態は望ましくない。勤務が偏っているような業者があれば、自治体は指導してほしい」としているが、「保育士の配置基準などと比べ、明らかに変則的な解釈」(細川敦史弁護士)になっている。

 ペット関連の業界団体の力が強い日本において、19年の動物愛護法改正は、大きな前進だったことは確かだ。だがそれでも、フランスをはじめとする欧米先進国のように、ペットショップにおける大量販売、ひいては繁殖業者による大量生産を困難にし、優良な繁殖業者(ブリーダー)からの直売に誘導していこうとするほどの規制水準にはならなかった――というのが現実だ。

 8週齢規制も数値を盛り込んだ新省令も今年6月に施行されている(新省令の一部を除く)。これらの規制をもってしても繁殖業者やペットショップによる飼育環境が改善されなければ、次の動物愛護法改正では、繁殖業について許可制導入が視野に入ってくると考えられる。消費者の意識の高まりが、不買運動などにつながる可能性も否定はできない。その先には、今回フランスが決断したような、ペットショップでの犬の販売禁止が議論の俎上(そじょう)にのることもあるかもしれない。

 一方でペット業界も、巻き返しをはかってくるだろう。今年春以降、競り市の業界団体「ペットパーク流通協会」や一部の大手ペットショップチェーンなどが、自民党を支持する職域団体結成の動きを見せている。入会を呼びかける文書を入手すると、そこには「次回の法改正に向けて、ペット業界も(中略)政治的な活動が可能な組織を、検討しております」「これ以上の不利益な法律になることは避けなければなりません」「建設業や医療、保育、理容業などに続く、全国組織を形成していきます」などと書かれていた。

 動物愛護法は施行後5年をめどに、見直しが行われる。5度目の改正に向けた議論は、早ければ24年にも始まると見られる。

(朝日新聞 文化くらし報道部 太田匡彦)