秋田犬保存会の遠藤敬会長(右)から、秋田犬「MASARU(マサル)」を受け取るロシアのアリーナ・ザギトワ選手
秋田犬保存会の遠藤敬会長(右)から、秋田犬「MASARU(マサル)」を受け取るロシアのアリーナ・ザギトワ選手

 ペット業界側も自民党の政治家に多額の献金をするなどして働きかけを強めたが、19年6月、改正動物愛護法が成立。環境省令による数値規制導入が実現することとなり、8週齢規制の附則も削除された。ただ「どんでん返し」もあった。8週齢規制について、岸信夫衆院議員が会長(当時)を務める「日本犬保存会」と遠藤敬衆院議員が会長を務める「秋田犬保存会」が反対の姿勢を堅持。法案を取りまとめる最後の段階で、超党派議連側が譲る形で、柴犬や秋田犬など日本犬6種についてだけ、生後49日を超えれば繁殖業者が消費者に直接販売できるよう、またも「附則」がつけられてしまった。

 犬適正飼養推進協議会は法改正後も粘った。数値規制の具体的な内容は省令で定めることになったため、今度は、その規制水準を巡ってロビー活動を始めた。19年11月、中央環境審議会動物愛護部会に出席した石山会長は、犬の寝床の大きさとして「高さ=体高×1・3」「幅=体高×1・1」という、犬がほとんど身動きできない数値を主張するなど激しく抵抗。「犬や猫に携わる多くの人々の営みに重大な影響を及ぼす」などとして、政治家に働きかけたり、複数のメディアに意見広告を掲載したりした。

 こうしたなかで環境省は昨年、英国やドイツ、フランスなどの規制のあり方を参考にしつつ、国内の動物行動学の専門家からの知見を集めて、省令を取りまとめた。従業員1人あたりの上限飼育数を繁殖用の犬では15匹、猫では25匹までとし、メスを交配に使えるのは原則6歳までにするなど、一定の前進は見られた。

 ただ、特に問題視されていた、繁殖業者が狭いケージに入れっぱなしにする詰め込み飼育への対策としては、平飼い用ケージの面積を体長30センチの犬なら最低「1・62平方メートル」とし、そこに2匹まで入れられるという内容になった。すべての犬の飼い主を対象に規制を定めるドイツでは、体高50センチまでの小型犬用の平飼いケージの広さは、1匹あたり最低「6平方メートル」と規定。また、業者を規制対象とするフランスでは、犬1匹あたり最低「5平方メートル」だ。日本の規制は、これらの半分にも満たない。

 さらに交配の上限年齢やケージの面積(容積)については、施行までに1年の猶予期間を設定。従業員1人あたりの上限飼育数に至っては、完全施行を24年6月まで先送りした。ペット業界への影響を考慮した結果だ。

次のページ
ペット業界の力が強い日本