「委託費の運用にルールを作らないと何も変わらないと思います。それと、保育士の平均月収が30万円ちょっとで、その3パーセントで9000円だそうですが、ボーナスを入れても月収30万円に達している保育士は少ないと思いますよ。この平均月収はどういう計算で出したものなのか」
■「休憩つぶしたのは勝手な判断」と言われ
東京23区内の保育所に勤める吉岡明美さん(50代=仮名)。5年前、まったく別の仕事から転職を果たした吉岡さんが見たのは、薄給と激務に希望を失い、息子や娘のような若者たちが次々と職場を去っていく、むごい現実だった。
「保育士がみんな20代で辞めていく。2年前には、職場の半数に当たる保育士が一斉に退職しました。キャリアを積んだ中堅の保育士が、ただの一人もいません」
約30時間の残業代込みで、手取りは20万円代。年2回のボーナスも手取りで数万円だ。昇給はほとんどなく、サービス残業も横行している。
「保育士の仕事は、日誌や個々の園児のようすの記録など、書類の処理業務が非常に多いんです。やむなく休憩時間をつぶしてそれをこなしていましたが、会社側は『休憩は取ってください』の一点張りでした」
昨年、運営会社に異議を訴えたところ、幹部はこう言い放った。
「休憩時間をつぶしたのは、あなたの勝手な判断でしょ?」
離職する保育士が相次ぐ現状に、
「ギリギリの人数では、安全で安心な保育はできませんよ。ずっとこのままでいるつもりですか」と問いただしたが、幹部の対応はそっけなかった。
若い労働者が辞めていく前提で、薄給で使い倒す。まさにブラック企業と似た構図である。
「10年、20年とキャリアを積んだ質の良い保育士がいた方が、園児の成長にもつながりますし、預ける親たちだって安心です。この当たり前のことを会社は考えようともしない。社会経験が長いと会社に意見するようになるので、ベテランがいない方が好都合なんでしょうね」
12月19日の日曜日、「介護・保育ユニオン」が東京・新宿で保育士たちによるデモを行なう。
(1) 委託費の使い道のルール化
(2) 国が定める保育士の人員配置基準の改善
(3) 上の(1)(2)を実現したうえでの公定価格の引き上げ
の3つの柱を訴える。
三枝さんも吉岡さんもこのデモに参加するという。
「委託費や人員の問題が全然改善されない。保育士らの待遇改善を岸田首相自らが打ち出した今がチャンスだと思って、声を上げる決意をしました。野党も文句だけを言うのではなく、新しい仕組み作りにしっかり動いてほしい」(三枝さん)
吉岡さんもこう強調する。
「保育士に転職して、若い保育士たちが、子どもたちの成長をどれほど真剣に考えているのかを身をもって知りました。その子たちが希望を失い去っていく現状を何とか変えたい。年上の私が、行動しなければと思ったんです」
岸田首相と与党だけではなく、野党も知恵を絞り動かねばならない。彼らの苦しみを知らず、文通費などを“ごっちゃん”してる場合ではないのだ。(AERAdot.編集部・國府田英之)