同僚たちも憤ったが、会社からの圧力で次第に心を病むようになり、一気に5人が退職した。職場の保育士の2割もの人員、しかもみんな20~30代の若者だ。

 会社の方針転換で、その教材は1年もたたずに扱わなくなった。

「さらに問題なのは、その後の人員補充がないこと。薄給のため、募集しても人が来てくれない。現場が少人数で疲弊していくなか、それでも会社は給料をあげようとせず、人員補充に本気の姿勢を示さないんです」(三枝さん)

 本来は4種類のシフトがあるが、今はなし崩し。保育士同士で時間を融通しあい、ギリギリの状況で仕事を回しているという。

■人件費を削って会社が潤う現状

 給料が低すぎるといわれ続けている保育士。岸田首相は、保育士の月給を9000円上げるとうたっている。だが、現状は国の制度の運用に大きな欠陥があり、その9000円ですら保育士に届く保証はない。

 私立の認可保育所には、市区町村から毎月、国の「公定価格」に基づき、運営に関する「委託費」が支払われており、これが主たる財源だ。この公定価格自体が低すぎるという指摘はかねてあった。さらに2000年までは「人件費が全体の8割」と使途が定められていたが、同年に国が待機児童解消を名目に株式会社の保育参入を解禁し、同時に委託費の「弾力的運用」を認めた。

 この「弾力的運用」をいいことに、保育士の人件費を削り、経営者や会社ばかりが潤っている保育園がある。委託費の恣意的な運用が許され続けているのだ。

 会社の姿勢に疑問を募らせた三枝さんは労働組合を通じ、会社に運営費の書類を開示するよう求めたが、当初は拒否された。最終的に開示に応じたが、ほとんどの数字が黒塗りされ、人件費の割合はおろか、経営実態はなにも分からなかったという。

 三枝さんは、「会社は保育士たちに『本当はもっと給料をあげたいんだけど』などと不可抗力かのように言うのですが、まったく信用できません」と憤り、疑問を口にする。

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