岸田文雄首相は12月6日、国会での所信表明演説に臨み、新型コロナウイルス対策として国産ワクチンや治療薬の開発に5千億円規模の投資を行うことを表明した。
現在、国内では塩野義製薬、第一三共、KMバイオロジクス、アンジェス、VLPセラピューティクス・ジャパンの5社がコロナワクチンの治験を行っている。
だが、すでに米ファイザーや米モデルナのmRNAワクチンが流通し、日本人の約8割が接種済み。ワクチン未接種の人を対象に、数万人規模で行う第3相臨床試験の実施が困難な状態だ。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が語る。
「南米や中東などの感染拡大地で試験を行う方法がありますが、巨額の費用がかかる。ファイザーは自前で30億ドル(約3400億円)を調達しましたが、日本企業には厳しい。厚生労働省はウイルスに有効な抗体の量を示す『抗体価』などを指標に既存ワクチンと比較して、有効性や安全性を評価する考えのようです。しかし、抗体価が上がっても大規模試験を行わないと、実際に感染を予防できるかはわかりません」
日本は1980年代ごろまでは、水痘や百日咳などのワクチン開発で世界の先頭集団を走っていたというが、ポテンシャルが低下してしまったのだろうか。ある厚労官僚がこう嘆く。
「厚労省は副反応などのリスクを警戒して、米CDCのようにいろいろなワクチン接種を推奨しようとしない。国内メーカーはワクチン開発に投資するメリットがなくなり、新しいワクチンを生み出すような土壌は失われていったのです」
だが、ここにきて有望株が現れた。田辺三菱製薬のカナダの子会社メディカゴが現在、コロナワクチンを開発中だ。カナダや米国、ブラジルなど6カ国で約2万4千人を対象に第2・3相試験を実施。中間解析の結果、偽薬群と比較して71%の発症予防効果があり、デルタ株に限ると75%あった。新技術のVLPワクチンと呼ばれるもので、タバコ属の植物にウイルスの遺伝子を組み込み、葉の細胞にウイルスに似た粒子をつくらせる。
「いまのところ重篤な副反応はなく、軽度の発熱も10%未満でした」(田辺三菱の広報担当者)
年内にカナダで承認申請し、来年3月の実用化を目指す。日本でも来年度中の実用化に漕ぎつけたい意向だ。強みは、冷蔵庫で保存できること。超低温保存が必要で副反応が比較的強いmRNAワクチンを利便性で上回れるか、注目される。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2021年12月24日号