ルポルタージュの金字塔、開高健の『ベトナム戦記』。共に現地を駆け回り、従軍取材では死を覚悟し、「全頁(ページ)に登場している」と書かれた人物がいた。
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作家で、緻密な取材によるルポでも傑作を生んだ開高健。1964年11月から約3カ月、戦時下のベトナムに滞在し、「週刊朝日」に連載したルポを覚えている読者もいるかもしれない。
共に特派されたのが、開高と同じ30年生まれの写真記者・秋元啓一だ。65年2月14日のジャングル戦では、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)に包囲されて乱射を浴びたが生還。振り返って開高は「弾丸のしぶきのさなかでシャッターをおす人は、そうはいない。世界有数の写真家」と評し、戦場カメラマンとして名を馳せたロバート・キャパになぞらえ「秋元キャパ」と呼んだ。滞在中に撮った写真は、歴史的にも貴重な作品として知られている。帰国後も親交は続き、『フィッシュ・オン』の釣り紀行にも同行。前述の2月14日を「命日」として、毎年「通夜酒」を酌み交わした。
「遅筆で知られた開高を、現地で執筆に向かわせたのも秋元さん。名編集者の一面も」と話すのは、開高健記念会の永山義高理事長。前述のルポをまとめた『ベトナム戦記』(朝日文庫)は、先月新装版が発売されている。
(構成/本誌・直木詩帆)
※週刊朝日 2021年12月24日号