菅前首相は、人類がコロナに勝った証しとして、オリンピックを開催すると宣言した。
勝ち負けの問題ではない。長い間の人間優先の歴史がウイルス禍を招いたという反省なしには前に進めない。
日本では、あれよあれよという間に感染者が劇的に減り、なんとも気味悪い。その反動がくることは目に見えていて、それがオミクロン株なのか。ひたひたと足音が聞こえる。
様々なコロナに関する記事や意見を聞いてきて、私は結局カミュの『ペスト』に落ち着いた。始まりから終わり(終わりはない)まで、今回の新型コロナ騒動とそっくりなのだ。
街で鼠の死体を発見する所から、人々の右往左往が始まり、原因究明にやっきになる医事関係者、容赦なく襲いかかる死、そして突然の退潮。しかしペストはどこかに潜んでいるだけで、いつ息を吹き返してもおかしくない。参考になるのは歴史と経験。あまりの類似にぞくっとした。ぜひご一読を。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2021年12月24日号