西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、日本シリーズを制したヤクルトの巧みな登板間隔について語る。
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西武は12月4日にメットライフドームでは3年ぶりとなるファン感謝イベント「LIONS THANKS FESTA 2021」を開催した。松坂大輔の引退セレモニー、私も彼の入団時の監督だったという縁で、花束を渡す一人として、球場に呼ばれた。
球団からはサプライズにしたいというから、本人に伝える訳にもいかなかった。実は前日の3日に大輔と対談した。どこかで悟られるかなと思っていたが、何とか乗り切ることができた。本人の驚いた表情を見られてよかった。
横浜高校時代に監督だった渡辺元智さん、WBCでともに戦い、代表監督を務めた王貞治さん、巨人の原辰徳監督、そしてソフトバンクの工藤公康前監督、オリックスの中嶋聡監督……多くの恩師からのビデオメッセージがあったから、その後に登場する私が「頑張った」と言っても芸がないな……と、何かないかなと考えた結果、「大輔にファンの前で約束させよう」と思い付いた。
花束を手に大輔に近寄った。私が花束を持ったまま記念撮影のカメラのほうに向き笑顔を向けると、大輔から何か突っ込まれたな。ジメジメした空気を大輔との間で作りたくなかったし、最後まで笑顔で迎えたかった。最終的には花束を渡したけど、それだけで終わらせる気はなかった。
私は少しだけねぎらいの言葉をかけた後、すぐに「一つ、あなたが私に対して、約束がはたせていないもんがありますよね? わかっていますよね」と投げかけた。そう、大輔の入団交渉のときに渡した、私の200勝ボールの代わりに、彼の200勝ボールをもらうという約束だ。「あのボールの件ですよね、ね。だから、一つまた新たな約束をしてほしいです、今度はぜひ破らないように。大丈夫ですか。はっきり、大丈夫ですか? 今度は守ってくれますか、じゃあ」と詰め寄った。大輔も面くらったろう。それでいい。野球人として一時期でも同じ釜の飯を食べた仲。年の差なんて、もうないよ。同志だ。「いや、あの、内容にもよるんですけど」とはぐらかしてきたから、攻め込んだ。「西武ファンの皆さん、耳を澄まして聞いてください。大輔、今度帰ってくるときは、ライオンズのユニホームしか着ちゃダメだぞ! どうですか皆さん」と声を上げた。最後まで言質はとらせてもらえなかったけどね。