鎌原には、後日の物語もある。生き残った九十三人が同じ土地に新しい鎌原を作った。
立松和平の小説にも詳しいが、その九十三人が一つの家族となって結婚し子供を育て、鎌原を元にもどす懸命の策を講じたのだ。自然に立ち向かう人間の強さを感じることが出来た。
人間も自然の一員なら、天災に遭っても負けることなく、その地で生活を築いていく。知恵と底力を見た思いがした。
一週間ほど前、天明の噴火と鎌原がニュースになった。埋もれたままの部分を発掘することになったというのだ。まだ知られていないドラマが眠っていることだろう。
きっと新しい発見があり、当時の人々の暮らしだけでなく、その時の悲喜こもごもの感情や思いを想像させることになる。
恐ろしさを抱えながら、人間が生きるとは何か、そして突然訪れる死とは何かを問いかけるに違いない。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年11月11日号