
米国政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授は「米国政治も価値観と経済政策のスタンスで区分できます」と話す。
米国では80年代のレーガン政権以降、「小さな政府」の流れが顕著になった。軍事費を拡大する一方、社会保障費を抑制し、規制緩和と大幅減税で市場原理を重視する政策は「レーガノミクス」と呼ばれた。こうした共和党の政策に、同性婚や妊娠中絶に強く反対するキリスト教右派が同調し、中東政策にも影響を及ぼすようになる。
米国のリベラルとは何か。
米国の政治学者ルイス・ハーツは欧州の政治史と比較し、王政の封建的伝統を持たない米国は「生まれながらの自由主義社会」だと分析した。これが変化したのは50~60年代だという。
「貧困や差別と向き合い、所得の再分配や公民権運動を進めるのがリベラルだという認識が浸透しました。つまり、平等主義です」(前嶋教授)
もう一つの流れが、レーガン政権を嚆矢(こうし)とする“リバタリアン(新自由主義)”だ。語源は同じだが、平等主義のリベラルとは正反対の価値観といってよい。
「政府が所得を再分配する『平等の押し付け』から自由になる、という意味での『リベラル』です」(同)
米国では「王権の支配からの自由」から「平等主義」、さらには「政府からの自由」という捉え方にリベラルの意味が変化してきた。日本にはこのうち、「平等主義」のリベラルが流入した、というわけだ。
FOXニュースの登場で“真実”が見えなくなる
米国では、共和党が保守、民主党がリベラルというイメージが定着しているが、マスメディアも大統領選などで旗幟(きし)を鮮明にする傾向がある。この流れは96年に保守系メディア「FOXニュース」が設立されたのがきっかけだ。
ジャーナリズムの伝統に基づき、是々非々で「権力監視」してきた米国の報道機関で保守に肩入れするメディアは存在しなかった。ところが80年代以降、“宗教保守(福音派)”の影響力が全米で広がり、空白だったこの層に寄り添うメディアが現れたのだ。
「市場があり商業的に儲かると分かったのです。しかし、これはとんでもない問題を社会にもたらしました。何が真実か見えなくなったのです」(同)
この状況は日本も重なる。
「各報道を読むと、モリ・カケ問題は何だったのか、『安倍さんすごい』なのか、『安倍さんとんでもない』なのか評価が分かれています」(同)
インターネットの検索サイトが提供する「自分が見たい情報」しか見えなくなるアルゴリズムの機能や、似た意見をもつ人どうしがつながりやすいソーシャルメディアの特性は、社会の分断を助長する、との見方もある。
「ソーシャルメディアは人の意識に刺さるだけでなく、実際よりも主張が増幅されてしまう結果、分断が深まります。正確な報道は民主主義社会の血液ですが、ニセの血液が増えると、二項対立の機能不全に陥ります」(同)
メディアリテラシーはすぐには身に付かない。ソーシャルメディアの改善措置も過渡期といえる。では、どうすればいいのか。前嶋教授は「デジタルデトックス」が必要と言う。
「いまは情報のバランスを図るため、適度な距離を保って、バイアス(偏り)をデトックス(解毒)するしかありません」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2021年12月27日号より抜粋