それでも猫の悪いイメージは残り続けたが、その後すぐ、意外な理由で「猫ブーム」が訪れた。1908年、日本に招かれたドイツの学者ロベルト・コッホが、当時はやっていたペストの対策として、猫を使って病気を媒介するネズミを駆除すべきだとしたのだ。
それを受けた国は、一般家庭に「猫を飼え」とのお達しを出す。東京では警察が民家一軒一軒に、猫を飼えと説いてまわったという。つまり、かわいいからではなく、役に立つから飼うという、今とは違う意味での「猫ブーム」。だが、便利な殺鼠剤の普及などにより、ブームはわずか数年で終わった。
私たちがイメージするような、ペットとしての猫人気が爆発するのは、第2次大戦後のこと。「猫界」にとって画期的な年となった78年には、たくさんのメディアに「猫ブーム」という言葉が躍り、社会現象になった。大佛次郎『猫のいる日々』、庄司薫『ぼくが猫語を話せるわけ』など猫関連の本が多数生まれ、雑誌「猫の手帖」が創刊。今号の表紙を撮った岩合光昭さんの最初の写真集『愛するねこたち』もこの年に出版されている。
「70年代以降は都市化がすすみ、とくにマンションが増えたことが、猫人気を後押ししました。当時はまだ、犬は外で飼うのが主流であり、かつほえるので、集合住宅では猫のほうが選ばれやすかったんです」(同)
その後も猫は愛されてきたが、2000年代以降、空前の猫ブームが続いている。そして17年、冒頭にもふれた、犬の飼育頭数との逆転が起こった。真辺教授は分析する。
「犬に比べて体がやわらかく、自由に動き回る猫のほうが、おもしろい姿勢や表情を撮影できることが多く、写真や動画を共有する文化が生まれたネット時代との相性がよかった。これも、空前の猫ブームの一因です」
今や、日本人の犬猫飼育頭数(約1800万頭、2020年)は、15歳未満の子どもの数(約1500万人、同)より多い。うち約964万頭は猫だ。今後、猫と人間の関係はどう変化していくのか。