青野さんはこう指摘する。
「日本人の名前は『氏』と『名』の二つがセットで『氏名』としてシステムが作られてきました。ここに『旧姓』という新たな項目を足して、希望する人は『氏』の後に括弧書きで付けることを可能にする。名前を扱うすべてのシステムで、それを考慮する必要が出てくるというのは、恐ろしいことです。これから生み出されるものを含め、世の中にいくつシステムがあると思っているのか。しかも私たちの税金が使われるわけです」
カードやパソコンの画面に表示させるだけならまだしも、検索条件でどう扱うのか、システム間のマッチングをどうするのかといった問題をはらむ。また、パスポートは旧姓併記していてマイナンバーは併記していないといった場合に、同一人物であるとして扱うのかなど、様々な混乱が派生して生まれる。
■ガラパゴス化が進む
戸籍名と旧姓を使い分けたり、一人が二つの氏名を持ったりすることで、地域の店や個人間ではさらにトラブルが起きやすくなる。青野さんは旧姓併記の弊害をこう指摘する。
「こうしたシステム改修は『名前を変えない』という夫婦別姓の選択肢さえあれば必要のないことです」(青野さん)
前出の井田さんも言う。
「2001年の各省庁による報告を見れば、管轄や国をまたいだ運用に混乱が起こるため『旧姓併記を認めるのは困難』とすでに指摘されていました。早急にアプリをリリースすることのほうが重要なのだから、わがままを言うなというご意見もありますが、当事者はそもそも望まない改姓をした結果としてこのような状況にいるのです」
二つの氏名を持つという日本独自のローカルルール。苦痛と、混乱と、コストを人々に強いながら、ガラパゴス化はどこまで進んでいくのだろうか。(編集部・高橋有紀)
※AERA 2022年1月3日号-1月10日合併号