他方で北朝鮮の核やミサイルの脅威という外患が、政権維持に大いに「流用」される事態も顕著でした。2017年には北朝鮮の脅威を「国難突破」として政権の付託を問い、そしてまた「台湾有事は日本の有事」と外患を声高に叫ぶ元首相に既視感を覚えるのは私だけでしょうか。したたかで強面(こわもて)の隣国、大国の中国と渡り合うには二枚腰、三枚腰の、静かな、しかし着実な現実主義(リアリズム)的なアプローチと同時に、局面打開の図柄を描くビジョンが必要です。内憂から目をそらすような外患を獅子吼(ししく)する勇ましい大言壮語には、眉につばを付けてかかるべきです。
こうした既視感にあふれた政策や発言が繰り返され、それがほとんど歴史のふるいにかけられることもないのは長期政権の宿痾と言うべきです。新しい年もそれが続くのか、それとも何がしかの総括とともに新たな展望が開けてくるのでしょうか。
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2022年1月3日-1月10日合併号