姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
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 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 憲政史上最長だった安倍政権の光と影、その功罪を曖昧(あいまい)にしたまま次々に弥縫(びほう)策を繰り出しているのが現在の日本の政治の姿ではないでしょうか。その「宿痾(しゅくあ)」の兆候は、アベノミクス以来の金融緩和策の限界となりつつあるようです。英イングランド銀行が0・25%に金利を引き上げ、米国も金融緩和の引き締めに動き、金利引き上げは既定路線です。

 これに反して、日本では金融緩和の出口戦略も見えないまま、株安、円安、債券安のトリプル安へと向かいそうです。所得も賃金も停滞し、国民経済のレベル低下に歯止めがかかりそうにありません。

 江戸時代後期、「内憂外患」で騒然となる中、統治者や支配層が最も恐れたのは、「外患」と誼(よしみ)を通じかねない「姦民」の跋扈(ばっこ)でした。尊王攘夷(じょうい)のイデオロギーにもそれが色濃く影を落としました。戦時では「外患」は鬼畜米英で、それに通じかねない「非国民」の「内憂」が取り締まりの的になり、戦後の冷戦下では旧ソ連邦や中国の「赤(共産主義)」の「手先」やそのシンパが外患に通じる内憂として恐れられました。そして今、外患に通じる内憂として、政権に批判的な言説はことごとく「反日」のレッテルで切り捨てられ、「敵」を利する「姦民」扱いを受けかねない状況です。

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