元駐ロシア外交官で著述家の亀山陽司さん
元駐ロシア外交官で著述家の亀山陽司さん

■核戦争は考えにくい

 そしてもう一つは、米国や北大西洋条約機構(NATO)によるウクライナへの軍事支援の内容が変わった時です。現時点では、相手側に侵攻していけるような兵器の支援はしていないと言われています。ロシアは、ウクライナが軍事的に強化されていく状況というのを安全保障の面から懸念していて、これが侵攻の一つの原因でした。今後、ロシア側が押し戻されるなどして「国家存亡の危機」という判断をしたら、核の使用に踏み切る可能性もあるでしょう。

 ただし、ロシアが核を使用したとしても、米国やNATOが核を使用することはないと思います。彼らは自国に被害が及ぶまで戦闘をエスカレートさせないことが一番重要なことだと認識していますし、たとえロシアが核を使用する根拠となるようなこと、例えばロシア本土攻撃があっても、それには関与していないという立場です。そういう意味でも核戦争は考えにくいと思います。

──停戦の可能性は?

 ロシアは約30万人もの動員をかけています。いま停戦した場合、ロシアに有利に交渉が進むのは明らかなので、ウクライナも応じられない。いまロシアに押さえられているところで線が引かれるのは明らかですから。そうはいっても、どこかで交渉に入らなければいけないというのは共通の認識のはずです。そのためには、ロシアとウクライナの戦況がどちらかの勝敗に傾いていない時期が停戦交渉のチャンスでしょう。自著『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』でも述べましたが、ロシアはいまだ冷戦を引きずり、大国政治といった独自の行動原理を持っています。それを理解したうえでの外交が望まれます。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2022年10月31日号