書き始めの苦しい時期は近所のドーナツ店に通い詰める。朝11時までに行って朝食をとり、3時間ほど書く。その店がないと一歩も進めない気すらするそうだ。
「自分は小説が書けるから存在しても良し、みたいな認識でいるので、書けないと精神的にまずい。深刻にならないようにゲームをして気をそらしています。原稿が乗ってくると全然違う時間を生きている感じになるんです」
寝食が面倒になるくらい没頭し、3時間の執筆を3ラウンド繰り返すこともあるが、文章が粗くならないように3時間ごとに休憩を入れる。こうしてずっしりと重厚な作品が生み出される。古谷田さんはこう語る。
「社会にたくさんの矛盾や暴力がある中で、フィールダー、つまり当事者にならずに済む人なんていないだろうと思うんです」
(仲宇佐ゆり)
※週刊朝日 2022年11月4日号